この本面白い


これから本の紹介もしていきます。読みやすくい良書を集めたいと思います。

この本面白い(26) 「ベートーヴェン、ブラームス、モーツアルト その音楽と病」

ベートーヴェン、ブラームス、モーツアルト その音楽と病

ベートーヴェン、ブラームス、モーツアルト その音楽と病
総合病院内科医がその病歴から解き明かす

小林修三 著
2015年5月
医薬ジャーナル社 2600円

ベートヴェンは、1827年3月26日、午後5時45分に亡くなった。 遺体は直ちに解剖され、現在もウイーン大学に保存されているという。 そしてなんと、1994年にベートーヴェンの遺髪があのサザビーズにてオークションにかけられ、アメリカ人医師が入手したという。その遺髪を分析したところ、ベートーヴェンの遺髪からは高濃度の鉛が検出されたという。
同じく側頭骨も解剖され、聴覚神経の萎縮が確認され、難聴で悩んでいたことを裏付けた。
難聴の原因はこの鉛中毒が原因かもしれない。ベートーヴェンはワインが好きで、鉛製の食器でワインを愛飲したことが原因ではと推測されている。
一方、解剖の結果、ベートーヴェンの死因は肝硬変だそうだ。腹水が溜まり、5回の腹水穿刺を受けたことも記録されている。ただ鉛中毒と肝硬変については一般的には関係はなく、肝硬変の原因については不明だそうだ。

ブラームスも肝臓病で亡くなったそうだ。
ベートーヴェンが亡くなった6年後、1833年に生まれた。
シューマンに見いだされ、その後シューマンの入水自殺を経て、シューマンの妻クララシューマンを生涯慕ったという。
死の前年までブラームスは、とても元気だったという。
しかし急激に進行した横断、腹水により、1897年4月3日、午前8時30分に亡くなった。
ここで、著者は、ブラームスとビルロートの交流について触れている。
ビルロートは今でも外科手術にその名を遺す大教授だが、ブラームスと同じ時代に活躍された先生と知りました。

モーツアルトは、1791年12月5日、午前0時55分に亡くなった。
サリエリによる毒殺説が有名だが、確証のあるものではない。
モーツアルトの父、レポルドは大変まめに手紙を残していたという。
その手紙に、「息子の咽喉がやられて、熱を出したあと痛いという。診ると足のすねに、やや盛り上がった銅貨ほどの発疹がいくつかできていた。」と記載があるそうだ。この記載から筆者は、モーツアルトは溶連菌感染症にかかっていたのではないかと推測する。溶連菌感染症からの慢性腎不全、心不全がモーツアルトの死因ではないかと推測しておられる。
そして心不全による起座呼吸を起こしながら、ベッドの上で上半身を起こして絶筆「レクイエム」を作曲したという。

著者の、小林修三先生は、現在、湘南鎌倉総合病院の副院長を務められる、内科専門医であり、腎臓病、透析治療の専門家である。学会などでは教育講演も多数行われている。
私も、ご高名は充分に存じていましたが、こんなに音楽に造詣が深いとは存じ上げませんでした。

本著では、3大作曲家の病気と死因にまつわる考察を、内科専門医らしく鑑別診断をあげて推論されている。
この医学的推論を読むだけでも充分面白いが、これら医学的な側面にからんで、大作曲家が残した数々の名曲を紹介しておられる。音楽の感想を言葉で表現するのはとても難しいことと思いますが、紹介された音楽は、どれもすべて聴いてみたいと思わざるにはおれません。
この本を案内役に、大作曲家の人生に思いを寄せて、あらためて名曲を味わってみたいと思います。
(令和1年10月22日、天皇陛下 即位礼正殿の儀の日に読了)

この本面白い(25) 「巨大ブラックホールの謎〜宇宙最大の「時空の穴」に迫る〜」

巨大ブラックホールの謎〜宇宙最大の「時空の穴」に迫る〜

巨大ブラックホールの謎
〜宇宙最大の「時空の穴」に迫る〜
本間 希樹 著
ブルーバックス 講談社 1,000円

2019年もいくつかの驚くようなニュースがありました。
中でも、2019年4月10日に世界同時発表された、「ブラックホールの姿を捉えた!」という報道には大変興奮しました。

ブラックホールという理論上の存在と思っていたものが、実際に存在し、可視化されたというニュースには大変驚きました。
観測の感度を上げるために、地球上に点在する電波望遠鏡をネットワークで繋ぎ、膨大な観測データを持ち寄り解析するという国際プロジェクトEHT(Event Horizon Telescope)。その日本チームのリーダーが、この本の著者の本間希樹さんです。
とても分かりやすい記述で、天体観測の歴史から比喩を交えた表現で記述されています。

例えば、観測されやすい巨大ブラックホールの例として、いて座Aスターという天体を例にあげると、いて座Aスターまでの距離は2万5000光年。月の上に置いた1円玉を探すような倍率が必要になるそうです。
分かりやすく記述された本で、とても天体観測に親近感を覚えたのですが、おしむらくはこの本が脱稿されたのは、2017年4月であり、本のオビに書かれている、「これが、人類が初めて目にしたブラックホールの姿です。」という歴史的な報道がされる直前に脱稿された本だということです。
オビに魅かれてこの本を手にしましたが、内容はブラックホールの撮影に成功する前夜で終わっています。ちょっと残念でした。

でもこの人類にとって歴史的な成功に、日本チームが大きく関わっていることを知り大変感動しました。
また、不可能を可能にする人間の探求心のすごさにもあらためて大変感動しました。

この本面白い(24)  NHK きょうの健康 「腎臓病のごちそう術」

科学者はなぜ神を信じるのか

NHK きょうの健康
「腎臓病のごちそう術」
低たんぱく&減塩なのにおいしい!
〜栄養計算いらずのレシピ111と裏ワザ48〜

監修:山縣 邦弘
筑波大学医学医療系 腎臓内科学教授
料理考案:金丸 絵里加 管理栄養士
(株)主婦と生活社 1250円

腎臓病の食事療法についての本です。
腎臓病には、食事療法が必要になります。 食事療法を実践することで、腎機能の悪化を防ぐことができます。
残念ながら、「食事療法で改善する!」とは、言い難いのですが。

もし食事療法をまったく考慮しなければ、尿毒素物質の蓄積を招き、 腎機能の悪化を速めてしまうことになります。
日本腎臓学会では、腎機能に応じた食事療法の必要性を指導しています。

たとえば、「標準体重当たり、0.8gのタンパク質摂取」と解説してありますが、 それをどのように実践するかというのは、実際的にはなかなか難しい問題です。
それを説明するのが、医師、看護師、栄養士などの連携によるチーム医療です。

書店に行って、腎臓病の食事療法について解説してある本は少なくありませんが、 だいたい、私が読んでも難しい本が多いです。
このNHKの本は、そのような腎臓病の食事療法について、分かりやすく書いてあります。

まず、一日のカロリー摂取量をおおまかに決めて、それを3食に配分。 主食の量を決めた上で、副食の量を決めます。
その際に、豊富なレシピを紹介して、それらからチョイスするような記載になっています。
なんといっても、写真がきれいで美味しそうに見えます。 また掲載されているお料理は、普段の家庭料理で、いつもの調味料での味付けです。

普段、食事を作らない私でも、「わあ、美味しそう。どうやって作るんだろう。」と 関心が沸きます。
ひとつひとつのメニューに、タンパク質、塩分の量が記載されていて、 自然に、タンパク質や塩分の摂取量を意識するようになります。
見やすく分かりやすいという意味で、お勧めの本です。 当院の栄養士も分かりやすいと評しています。
分かりやすい、「腎臓病の食事療法」の参考書をお探しの方は、 一度、ご覧になってください。

この本面白い(23)  「科学者はなぜ神を信じるのか」 〜コペルニクスからホーキングまで〜

科学者はなぜ神を信じるのか

科学者はなぜ神を信じるのか
〜コペルニクスからホーキングまで〜

三田一郎著
ブルーバックス 社 1,000円

この本は、タイトルが面白そうだから手に取りました。
著者の三田一郎(さんだ・いちろう)先生は、名古屋大学名誉教授で、素粒子物理学者です。
名古屋大学理学部教授をはじめ様々な要職に着かれています。
と同時に、カトリック名古屋司教区終身助祭というカトリック信者でもあられる点がユニークというか、この本の生まれる由縁なのかもしれません。

中世、カトリック教義により天動説が信じられていた通説に、コペルニクスが地動説を提唱します。地動説といえばコペルニクスが提唱したものと思っていましたが、実はピタゴラス学派が紀元前にすでに提唱していたことと説明されています。またこのピタゴラスの地動説ともいえる説を封じたのは、アリストテレスであったとも説明されています。

これ以降も、ガリレオ、ニュートン、アインシュタインと、物理学の巨人たちの足跡と、彼らが神の存在をどのように捉えていたかというエピソードを交えて本は進みます。

アインシュタインの、E=mC2 という式は、あまりにも有名で、そこまではなんとか付いて行けましたが、その後、光は粒子であり、波であるというあたりになると理解できなくなりました。
時空のゆがみとか、宇宙は定常状態なのか膨張しているのかという議論で、アインシュタインでさえも間違えた宇宙項の扱いなど難解でした。でもそれさえも人間の智恵が解決を見つける。

新たな公式を発見して解を見つけた時、精緻な公式に感嘆すると同時に、その公式を書いたのは誰かという疑問に突き当たる。
そこに神の存在を置くか、置かぬかは、各自の感性の問題であろう。

最後の登場者で、難病ALSにて2018年3月14日に亡くなったホーキング博士の紹介では、宇宙の誕生ビッグバンについて簡単に説明されています。
宇宙 のはじまりは、ビッグバンと呼ばれる10のマイナス32乗秒のあいだに、小さな宇宙が10の43乗倍に膨張するという理論だそうですが、そう言われても聞いたことも見たこともないような次元の話に戸惑います。
物理学者というのは、こんな次元のことを考えているのですね。

著者の三田先生は、末尾に。
不思議な現象に出会ったときに最初から「神様がお作りになったのだ」という人は、絶対に科学者ではない。
しかし、「この宇宙のはじまりを、神を持ち出さずにすべて理解した。もはや神は必要ではない。」と考えることはそれこそ思考停止ではないでしょうか。
(中略)
科学者とは自然に対して最も謙虚な者であるべきであり、そのことと神を信じる姿勢とはまったく矛盾しないのです。

一応、なんとか読み終えて、、
日頃、物理学とか、光とか、時間とか、宇宙とか、あまり考えることもないので、高校以来の久しぶりの物理の話が興味深かったです。
それにしても、科学史に残る偉人たちの業績を紹介するとともに、その生い立ちなどのエピソードも交えて、教会との関係、信仰についてなど幅広く興味深く紹介するなど、さすがに長くこの道で研究されてこられたがゆえの幅広い視野で記述されていて、面白かったです。大変な労作と拝察致します。

折りしも、ちょっと悩み事を抱えて、この本を読んでいたのですが、量子力学とか宇宙とかビッグバンとか、広大な次元の話を読んでいるうちに、私の悩みなどちっぽけなものと思われてきました。良いタイミングでこの本に出会ったと思いました。

ちょっと難しいけれど、物理学の進歩をレビューできるという意味でも、オススメの一冊です。

 

(平成30年8月26日 奈良桜井 巻向古墳にて)

この本面白い(22)  「ロマンで古代史は読み解けない」 〜科学者が結ぶ、地図と陰陽〜

ロマンで古代史は読み解けない

ロマンで古代史は読み解けない
〜科学者が結ぶ、地図と陰陽〜
坂本貴和子・渡辺英治 著
彩流社

1,700円

これは、歴史の本です。
でもこの本がとてもユニークなのは、著者の、坂本貴和子さん、渡辺英治さんのお二人ともが、現役の科学者であるということです。
お二人とも、愛知県岡崎市の自然科学研究機構にて、坂本貴和子先生は生理学研究所で「ヒトの脳機能」を、渡辺英治先生は基礎生物学研究所で「動物の心理」を研究されているそうです。そのバリバリの理系科学者であるお二人が、歴史好きという共通点からこの本を書かれました。
歴史の専門家ではないお二人が利用したのが、インターネットというツールでした。
インターネットを利用して瞬時に地理を把握し計測することで、新しい視点から日本の古代史を見つめます。

伊勢神宮の内宮と下宮の2社構造、その鬼門と裏鬼門にあたる北東、南西の位置にある、諏訪大社と熊野大社。
いずれもが2社構造をとるということ。
出雲大社と出雲の熊野神社の2社構造。諏訪大社の上宮と下宮の2社構造。
それらには精緻に仕組まれた陰陽道の思想が秘められていると解説します。
陰陽道を研究する陰陽寮は、第40代天皇の天武天皇により676年に創設されてから明治3年まで存続し、暦や天文の知識を研究してきたそうです。陰陽寮の主要な研究目標であった暦の変遷についても詳しく記載されており、日本が現在の太陽暦を採用する明治6年まで幾多の暦が採用されたことが分かりました。

最後には、現在お二人が勤務する自然科学研究機構のある岡崎市に、「六」にちなむ地名が北東に向かって並ぶことを示します。そして岡崎市は伊勢神宮の北東にあり、さらに北東に線を引くと、長野県小諸市に、群馬県前橋市に、山形県寒河江市に、「六供」という町名が並ぶことを示します。
「六」は自然界にあって亀の甲羅の亀甲紋にも見られるように耐力構造に優れることから、陰陽道の教えに従い、伊勢神宮の鬼門に当たる北東に、「六供」という地名を並べたのではないかと推理します。
それぞれ時の為政者は伊勢神宮を中心に、陰陽道という教えに従い、さまざまな整備を行い、この国を護ろうとしたのではないかというロマンあふれる推理が繰り広げられる、非常に楽しい知的興奮を感じさせる本でした。
ご一読をお勧めします。

(平成30年8月23日)

この本面白い(21)  「栄養データはこう読む!」

栄養データはこう読む!

「栄養データはこう読む!」
女子栄養大学出版部
著者 佐々木敏

2,700円

東京大学大学院医学系研究科社会予防疫学分野教授の書かれた、本を読みました。
佐々木敏先生は、EBN, evidence based nutrition という考え方を提唱され、根拠に基づく栄養学の立場から、5年ごとに改定される「日本人の食事摂取基準」を作成されるなど、日本人の栄養学をリードされている先生です。
正直、栄養学について、ここまで詳細に科学的に、かつ分かりやすく解説された本を初めて見つけました。大変読みやすく、一気に最後まで読み通しました。

血中コレステロールの上昇には、食事中のコレステロールの摂取だけではなく、 飽和脂肪酸の摂取が影響する。
食物油による揚げ物では、血中コレステロールは上昇しない。 中性脂肪を上げやすいのは、脂質より炭水化物の方が上げやすい。 食塩と高血圧 国際連合による生活習慣病の予防には、タバコについで、2番目に減塩が重要。 食塩の摂取量は、血圧の自然増を加速するというデータなど。 肥満の問題 アメリカでは、心筋梗塞の予防から、ローファットの食事が推奨されたが、 同時に、ソフトドリンクの過剰摂取、砂糖よりも安価なシロップの消費増から カロリー過多となり肥満の蔓延、糖尿病の増加など。 食べる速さと肥満の関係を調べた実験 ソフトドリンクの過剰摂取は、規則正しい食生活のリズムを壊す。

朝食を摂ったかどうかと、20年後の肥満の有無を調べた研究
アルコール ビールを飲むとおなかが太るか?
ワインは健康によいか?
健康に良いのは、地中海食か和食か?

そして、健康に関する情報をどのように収集し、鵜呑みにすることなく、 あるいは惑わされることなく、自分の健康づくりに役だてるか? といった栄養リテラシーの話。

文章が明快で分かりやすく、また論文等の資料も丁寧に掲載されており、 とても良い本だと思いました。
この本を読んで、佐々木敏先生の著書をもっと読みたくなり、姉妹本である、「データ栄養学のすすめ」や、「日本人の食事摂取基準 2015年版」なども購入しました。
栄養に関する情報のあふれる現在、エビデンスに基づいた正しい栄養情報を身につけて、健康管理に役立てたいものです。 日本人皆が知っておきたい、栄養学の指針と思いました。 ご一読をお勧めします。

(平成30年8月1日)

この本面白い(20)  「今日は泣いて、明日は笑いなさい」

今日は泣いて、明日は笑いなさい

今日は泣いて、
明日は笑いなさい」

浄土宗大蓮寺・王典院住職
秋田光彦著
メディアファクトリー
1,000円

ご厚誼を頂いている、大阪の浄土宗大蓮寺・王典院住職 秋田光彦師が新著を発刊されました。
 有難いことに、私もこの著書に一葉紹介して頂いております。なんて紹介して下さっているのかは、皆様お手に取って頂いてお読みくださいね。


秋田光彦和尚様

 このたびは新調なったご本をご恵送頂き有り難うございました。
このご本を読ませて頂いて、あたかもキラキラと輝く万華鏡を覗いているかのような気持ちになりました。
 ある頁は口笛を吹きながら自転車のペダルを踏むように、すいすいと心地よく読み進める頁があるかと思えば、別の頁では思わず正座して居住まいを正して息をつめて一字一句を確認して読まずにはおれない頁があったり。赤裸にご自身のことにも触れておられたり。
 2頁読み切りで大きな活字でかろやかに読める本かと思いましたが、内容には大変深いことも書かれており、随分と考えさせて頂きました。
 おりしも高齢社会が進み、医療や年金や今後の社会保障への不安をあおるような報道、記事があふれています。しかしこのご本は、秋田和尚には当然のことながら、この世の先のあの世を視野に入れて書かれておられます。あの世までも視野に入れた視点からみれば、この世の不安も晴れていくような気持ちになります。


 たくさん素敵な言葉が散りばめられています。
153頁、「お墓が、人生を励ましてくれている。それもあり、だと思います。」これ秋田和尚様らしくて、いいなあ。
175頁、「明日死ぬと思って生きなさい。永遠に生きると思って学びなさい」(ガンジー)
 
 それにしてもお寺は本当に休みなしで多忙な毎日なんですね。そのお忙しい毎日のできごとを、このように一冊の本に素敵にまとめられたことに、あらためて敬意を表します。
 そしてこのご本のなかの一葉に入れて頂いたことにも感謝です。
パドマ幼稚園創立60年の勝縁にと結びにありますが、2013年年の瀬に素敵な本を世に贈り出してくださり、有り難うございました。
今後ともよろしくご指導ください。
益々のご活躍ご発展を祈念いたします。

(平成25年5月10日)

この本面白い(19)  「人は死なない」-ある臨床医による摂理と霊性をめぐる思索-

人は死なない
-ある臨床医による摂理と霊性をめぐる思索-

東京大学医学系研究科・
医学部救急医学文屋教授

医学部付属病院救急部・
集中治療部部長

矢作直樹著 
バジリコ社 1300円


著者の矢作直樹先生とは、実は私は金沢大学の同級生である。

同級生とはいっても、学生時代の彼の印象と言えば、山が好きで独りで山行を繰り返しているという記憶があるくらいで、当時から世俗を離れた超然としたところがあったように記憶している。

大学を卒業した後、彼は一時、吹田の国立循環器病センターに勤務されていた。当時、関西労災病院に勤務していた私は、医局での勉強会に彼を招き集中治療について話をしてもらったことがある。

その頃も超人的な働き方をされていた。しかも、それを誇るでもなく粛々と仕事に取り組んでおられる様子であった。

その後東大病院へ移られ、東大病院に救命救急部や集中治療室を作られるなど大活躍されていることも、さりげなく紹介されている。

国立循環器病センターや東大病院という最先端病院の集中治療室で、文字どうり最先端の近代医療に従事する彼が、このような「人は死なない」という、ショッキングなタイトルの本を書いたことにはかなり驚かされた。

実は、以前にこの本を購入して読んでいたのであるが、途中でよく分からなくなって一度、読書を中断したことがあった。それが、ふとしたきっかけでもう一度読んでみようと読み始めた。

彼は、この本のなかで、人間は近代自然科学とくに医学が研究の対象としてきた身体(Physics)としてのみでなく、霊(Spiritual)と称すものとの総体であるということを述べている。

臨死状態になったときに身体から霊が分離したような体験談を紹介したり、霊というものを研究した先人たちを紹介している。彼自身も両親についての経験から自分の霊的な体験を述べておられる。

彼がこのような超常現象に深く興味を持つようになったことについては、彼自身が単独で北アルプスなどの登頂に挑む登山家としての経験が影響を与えているのかもしれない。実際2度の滑落事故を経験され、文字どうり九死に一生を得たことも紹介されている。吹雪の雪山の中で何度も死と隣り合わせの経験をしながら思索を深めたことだろう。また病院の集中治療室で臨死の患者を見つめながら、やはり思索を深めたのであろう。

そのような彼の経験のすべてが、この本の中身を深いものにしているように感じる。
また過去の研究者の霊に関する研究などもよく調べたなと感心する。
毎日の診療のなかで、このように資料を読み思索を深めていかれたことには深く敬意を表したい。

近代実証主義の中で育った私たちに霊の存在を証明することはできない。
そこは彼自身が著書のなかで述べておられるように、このような霊的現象を他の自然科学と同様に証明する必要があるのだろうか。霊的現象は自然科学的弁証法では説明できない次元の異なる事象ととらえるべきではなかろうかと、述べるに留めておられる。

そして人は肉体といういう意味では有限な寿命を持ちいずれ死を迎えるが、死を迎えた後も霊的には存在する。

ここで彼は少し逆説的に、霊の永続性を良心に照らして述べておられる。すなわち人間の良心というのはどこから生まれてくるのだろうという疑問である。彼は、人は死んでも霊は残り、それが摂理として継承されたものが生まれつき人間に備わる良心というものではないか、と問いかける。

著者は最後に、”人はみな理性と直観のバランスをとり、自分が生かされていることを謙虚に自覚し、良心に耳を傾け、足るを知り、心身を労り、利他行をし、今を一生懸命に生きられたらと私は思っています。そして、「死」を冷静に見つめ穏やかな気持ちでそれを迎え、「生」を全うしたいものです。”とこの本を締めくくる。

私もそうありたいものだと、深くうなづく。

最後には、医療について、また病気とのつきあいかた、いずれ訪れる「死」への受けとめかたなど、その内容は宗教というものとも重なるのかもしれないが、彼の語りは宗教のように教条的ではなく、やはり「ある臨床医の摂理と霊性をめぐる思索」と表現するのがふさわしいように思う。

大学時代など、もう30年も昔のことになってしまった。
随分の時間が経ったわけではあるけれど、僅かながらも彼の学生時代を知るがゆえに、彼の人柄を知るがゆえに、彼の著書を一読に価すると紹介したい。

 

(平成25年5月10日)

この本面白い(18)  「腎臓のはなし」130グラムの臓器の大きな役割

「腎臓のはなし」
130グラムの臓器の大きな役割

順天堂大学
解剖学教授 坂井健雄著
中公新書 820


腎臓病について、いくつか一般の方向けの医学書は出版されていますが、この本は、臨床医ではなくて解剖学の教授が腎臓について一般向けに書かれた本であるところがかなり珍しい本だと思います。
解剖学の教授でありますから、腎臓の形態についてが中心です。

ウナギ、ヤモリ、カエルなどの両生類から、ラットなど哺乳類まで生物の種族を超えて、腎臓の基本的な構造は保たれているという話には、あらためて驚くとともに、腎臓のもつ血液を濾過し体液の恒常性を保つという普遍的な機能が生物にとって基本的に重要であることに気づかされました。

また腎臓という組織を力学という面から捉えて、充分な濾過を得る一方で組織への圧力負荷を避けるために、毛細血管網が発達したという説明には納得しました。
一方、尿の濃縮の機序の説明は私が読んでもちょっと難しかったです。

一般の方が読むには、ちょっと難解かとも思いますが、腎臓という静かな、著者の言葉を借りれば、「賢明で寡黙な哲学者のような腎臓の姿を知る」には興味深い本だと思いました。

坂井健雄先生の腎臓への愛を感じた次第です。

(平成25年5月7日)

この本面白い(17)  「腎臓病から見えた老化の秘密」 クロトー遺伝子の可能性

「腎臓病から見えた老化の秘密」
クロトー遺伝子の可能性

草野英二 黒尾誠 共著
日本医学館 1,000円


今、腎臓が老化という現象に深く関わっているのではないかと言う話題が注目されている。平成24年3月号の、「腎と透析」という医学雑誌も、「klothoと腎臓病」という特集を組んでいる。

ちなみに、クロトー(Klotho)とは、ギリシア神話の中で、万能の神ゼウスと妻テミスの娘で、運命を支配する3姉妹の女神の一人だそうだ。長女クロトーは生命の糸を梳き紡ぐ、次女ラキシスは糸の長さを測る。三女アトロポスは糸を切って生命の終焉を告げるとされる。この3人の女神によって決められた寿命は、何人たりとも変更することはできないとされているそうだ。

Klothoと名づけられた老化抑制遺伝子が見つかったのは、1997年。日本人の黒尾誠先生の発見による。この遺伝子を破壊すると、マウスに早老症候群が起こり、逆に過剰に発現すると、寿命が延びることがわかった。

このKlotho遺伝子のつくるKlotho蛋白は、FGF23呼ばれる因子の受容体となっていることがわかった。FGF23(Fibroblast
growing factor 23)とは、骨細胞から分泌されて、尿中へのリンの排泄を促す因子である。

FGF23が働くためには、Klotho蛋白の存在が必要であり、FGF23が働かないと、リンの蓄積が起こる。簡単に言うと、リンの蓄積が、早老症候群の発症に必要であることがわかってきた。

このKlotho遺伝子が、体の中では、主に腎臓で発現していること。
リン利尿因子のFGF23と緊密な連絡を持つことなどから、腎臓病と老化、リンの貯留、血管の石灰化、骨代謝といった問題が、KlothoとFGF23という因子の解明で、新たな展開が始まろうとしている。

腎臓は、単に老廃物を排泄する臓器から、老化を制御する臓器であるのかもしれない。今後の研究の展開が興味深い。

(平成24年4月2日)

この本面白い(16)  「くじけないで」 「百歳」

「くじけないで」
「百歳」
柴田 トヨ
飛鳥新社 1000円


「百歳の詩人」として、あまりにも有名な、柴田トヨさんの詩集を読ませて頂きました。

はじめての詩集、「くじけないで」が、150万部もの大評判になったことは、存じていましたが、実際に詩集を手にしたのは、初めてです。
二冊目の詩集は、「百歳」。

百歳の方でも、こんな瑞々しい感性をお持ちだなんて、驚きですね。
若者にも劣らぬ感性、やはり女性だなと伺わせる感性、 一人息子さんのことが、倅としてよく出てくるが、百歳になっても母は母。

そしてこの人の詩は、前を向いている。
百歳になっても前を向いている。

短い文章の中に、感性と前向きの気持ちが混じって、広がって、読む者の胸に飛び込んでくる。

すばらしいね、この百歳!
いまふうで言えば、思わず、いいね!をクリックしたい。
この詩集を読んで、アランの幸福論の言葉を思い出した。

悲観主義は感情で、楽観主義は意思の力による。
という言葉である。

詩集に垣間見られる、ある種の楽観主義は、しかし、まごうことなく作者の意思によると解釈する。

(平成24年4月1日)

   
この本面白い(15)   「きらめく定年後」
「きらめく定年後」
島 健二 著
論創社 1600円

さて、先生から前著「定年教授は新入生」の続編にあたる「きらめく定年後」なる御著書をお贈り頂き誠にありがとうございました。

今回の御本もですが、先生の御本は大変読みやすいです。
文章が適度に切れていて、リズムがあって、とても読みやすいです。
これはやはり医学者であられることから、自然と学術論文のスタイルで文章を書かれているからか、あるいは私も医師の端くれとして、そのような調子に親しんできたからか、リズムが私には馴染むのか、大変読みやすく感じます。

この先生の文章の読みやすさというのは、ちょっと特徴的ではないかと思います。
口語体であって、語りかけるような文調でありながら、説教くさくもないし、そういう意味では、あまり他に類をみない文調ではないかと思いました。
私は、それを「先輩調」と名付けました。
語りかけるようでありながら、説教くさくもないし、諭すような押し付けるようなところもないし、得てしてそのような臭いのする本が多い中で、先生の本は異彩を放っておられると思います。

それは、先生が理屈ではなく、実際に体験されたことを中心に、同時にその経験を医学者らしく客観的にも観察されて、複眼で記述されているところが、大変ユニークで、また親しみも感じられて、今回の御本も大変面白く、興味をもって読むことが出来ました。

それにつけましても、教授退官後、徳島大学総合科学での考古学の専攻、引き続いて、修士課程への進学、英文学の学習、修士論文の作成。
退官後の良き町医者の実践。奥様の御病気をとおしての考察。男の料理の経験。
フルマラソンの話題。お遍路さんの体験。
そして人生の先輩として、また医師としての、円熟した人生観など。

実に盛り沢山の内容にも関わらず、なにごとにも一生懸命にがっぷりと取り組まれ、真摯に、時にユーモラスに取り組まれる姿は、読む者に、清清しさと元気を与える、今回も好著と存じました。

先生を範として、私も自分の人生に相応に粛々と対応していきたいと思う次第です。

   
この本面白い(14)   「いのちのレッスン」
「いのちのレッスン」
内藤いづみ、米沢慧 著
雲母書房 1600円

内藤いづみさんから、新刊の著書を贈って頂きました。

内藤いづみさんは、甲府市で在宅ホスピス活動を続けている女性医師です。
言葉の表現の上手な人で、多くの講演活動や著作もされています。
当院の事務長と仲がいいことから、私もその輪に入れて頂き、時折、著作をお贈り頂いたりしています。

この本を通じて、内藤さん、米沢さんが伝えたかったこと。
それは、がん対策基本法ができて、緩和医療というものが、がんの診療の中に位置づけられたこと、それはとても重要なことではあるけれど、時に疼痛緩和などの知識や手技に偏ってしまい、
ホスピスにとって最も大切な、患者の声に耳を傾けるという姿勢が、喪われがちになっているのではないか。
という指摘ではないかと思います。

キュブラー・ロスや、オカムラアキヒコの足跡を追いながら、ホスピスの本流を忘れるなという警鐘を鳴らしておられるのではないかと思います。

内藤いづみさんの実践と、オカムラアキヒコさんとの交遊を通じ以後ホスピス活動の普及に尽力される評論家の米沢慧さんの往復書簡からは、行動する情熱と分析する知が混じって、ホスピスの在り様を考えさせてくれる好著に仕上がっていると思います。

御一読をお勧めいたします。

 
この本面白い(13)   平成20年4月号の医学雑誌「治療」vol90(4)2008 慢性腎臓病(CKD)特集
慢性腎臓病(CKD)特集

平成20年4月号の医学雑誌「治療」vol90(4)、2008.は、慢性腎臓病(CKD)特集でしたが、「いまい内科クリニックでの対応」という題で小論を投稿する機会を得ました。

昨今注目されるCKDについて、当院での実際に体験した腎臓病の症例を中心にまとめました。よいまとめと勉強の機会になりました。

今回あらためて、慢性腎臓病(CKD)というのは長い経過になるので、地域の開業医がプライマリケアとして診療にあたるのが望ましいのではないかと思いました。

また担当する医師としても、血圧、脂質の管理、食事の指導など、多方面なかかわりが必要です。ぞくぞくと登場する有効な新薬をはじめ多種の薬剤を駆使して、とてもやりがいのある仕事だと思います。

今回の論文の掲載を機に、今後も一層、腎臓病診療に尽力したいと思います。

(平成20年4月15日)

   
この本面白い(12)   「がんの在宅ホスピスケアガイド」
「がんの在宅ホスピスケアガイド」
吉田利康著
日本評論社 1500円

私たちの友人である、吉田利康さんが「がんの在宅ホスピスケアガイド」という著書を発表されました。
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/info/book_item/20071213-OYT8T00206.htm

ご自身の奥様との闘病体験をもとに、在宅ホスピスケアを通じて出会った多くの人たちとの交流を通じて、在宅ホスピスケアを願う患者、家族のためのガイドブックを作成されました。

素敵なイラストとあいまって、優しくて、時に鋭いまなざしで医療者、患者に等分の視線を注ぐ視点がすばらしいです。

ぜひご一読をお勧めします。


 
この本面白い(11)   「生物と無生物のあいだ」
「生物と無生物のあいだ」
福岡 伸一 著
講談社現代新書 760円

いま本屋さんに行くと、この本がかなり店頭に積んである。
さまざま新聞の書評でも紹介された、面白くて一気に読めると評判の、サイエンスノンフィクションであるので、私も早速読んでみた。

確かに面白い。

この本の著者は、福岡伸一先生である。
http://www.chem.aoyama.ac.jp/fukuokalab/
現役の生物学者である先生が、「生命とはなにか?」という命題の解説に取り組んだ本である。

彼は、生命とはなにか?という問いに以下のように答える。
1、生命とは「自己複製するシステムである。」
そして、自己複製を可能にする、おそらく20世紀最大の生命科学の発見である、DNAのらせん構造の解明にまつわる話を紹介してくれる。

1953年、ワトソンとクリックにより英の科学雑誌ネイチャーに発表された、DNAのらせん構造解明の論文は、なんとわずか1000語で書かれた短文であったという。そしてらせんの構造に方向性があり、互いに相補的な構造をなすという知見は、同時に自己複製の本体をも見事に説明する知見だった。

この偉大な発見にまつわる話として、ノーベル賞を受賞したワトソンとクリックの陰に隠れて、DNAのX線構造解析を通して、らせん構造の解明に多大の貢献をしたロザリンドフランクリンの業績を交えて、世紀の発見の裏に隠された人間模様をも解説してくれる。

次いで、彼は、生命とは、
2、「動的平衡にある流れである」と定義する。

その分かりやすい説明に、彼は浜辺の造られた砂上の楼閣に生命体を例える。
押し寄せる波に洗われるたびに砂上の楼閣の一部の砂は崩れて海に運ばれる。
そのままでは、あっという間に崩れてしまう楼閣が、しかし波にさらわれる一方で、波によって運ばれる砂で修復されるとすれば、生命体は本来のカタチを損なうことなく存在しえる。と解説する。

実際、放射性同位元素で標識されたアミノ酸を餌として3日間与えられたネズミの実験では、3日間与えられたアミノ酸の60%がネズミの体内に取り込まれたという。まさしく上述の砂上の楼閣のように、私たちの体は、毎日その組成から激しくダイナミックな新陳代謝を繰り返しているのである。
固体と思っている生命体も、ちいさな原子のレベルでみると、毎日激しく入れ替わる砂粒の集合体ということができる。

最後に、ご自身が取り組まれた実験を紹介されているが、その実験は、生命の機能に重要な役割を演じると思われるタンパク質を発見し、それを遺伝子操作することで発現しないように操作したノックアウトマウスの観察から、たとえひとつの非常に重要な役割をもつタンパク質の遺伝子を壊して、その生体での発現を止めたとしても、生命はその他の代償する機構を使って、生命体の維持を可能にするという実例を紹介されている。

生命とは互いに代償するしなやかさをもちつつ、動的平衡を維持するシステムなのである。と。

小さな原子、小さなタンパク質のピースの無数とも言える集合体からなる生体は、受精卵が成立した瞬間から、時間のながれに沿って、組み込まれている生命のプログラムに沿って、自己複製をしながら、動的な平衡状態を保ち続けるシステムといえる。

随分、原著を意訳したかもしれませんが、あらためて生命とはと考えさせてくれた本でした。
このような原子の時間軸での振る舞いの中に、意識が生まれ、記憶が生まれ、感情が生まれていく。
あらためて、「生きる」とは、不思議な現象であると感じた次第です。

DNAの発見に続く20世紀の生命科学の進歩に触れながら、生命とはという問題について、分りやすく解説してくれた、時には文学的な感性も光る好著でした。
さすがに、書評で高い評価を得ることはあると思いました。

なお、福岡伸一さんの名前を、ネットで探していたら、もう一人の気になる作家、内田樹さんのブログに行き当たりました。
http://blog.tatsuru.com/
次は、この今年の、小林秀雄賞を受賞された、内田樹先生の本を読んでみたいと思います。

 
この本面白い(10)   「寡黙なる巨人」
「寡黙なる巨人」
多田富雄著
集英社 1575円

世界的な免疫学者として、あまりにも有名な東大教授にして免疫学者である多田富雄先生が、突然の脳梗塞に倒れられてからの復活の体験記です。

突然、まったく右半身の動きと声を失うことになった多田富雄先生ですが、一時は自死も覚悟した状況から、懸命のリハビリに取り組まれます。
「寡黙なる巨人」とは、そんな懸命のリハビリの結果、かすかに動き始めた自分の足に気づいたとき、彼は、自分本来のからだは脳梗塞のために動かなくなってしまったはずだ。今日、再びわずかながら自分のからだが動き始めたのは、自分のからだの中に、新しい人、「寡黙なる巨人」が現れたからだと、書いておられます。

http://www.st.rim.or.jp/~success/tadatomio_ye.html
http://www.st.rim.or.jp/~success/tadatomio2_ye.html

脚光を浴びる人生から、一転、重度障害者の人生へ。
死をも覚悟した心境から這いあがる姿勢に、そしてさすがに一流の科学者らしく自らの姿を客観視する姿に、ある意味、人間の本質、可能性を感じました。

自作の詩の中から、引用です。

「死ぬことなんか容易い
生きたままこれを見なければならぬ
よく見ておけ地獄はここだ
遠いところにあるわけではない
ここなのだ 君だって行けるところなのだ
老人はこういい捨てて呆然として帰っていった」

スピリチュアルペインといったものは、こういう痛みかもしれないと思いました。

脳梗塞を患った人の心の機微を、そして再生への歩みを。
リハビリテーションとは、単に喪失した機能の回復ではなく、人間性の回復である。という多田富雄先生の発言は、多くの同病を患う患者にとって、また障害者にとって、大きな支えになることだと思います。

脳梗塞に倒れてからの闘病記ですが、御趣味でもあり造詣の深い「能楽」からの引用や、折に触れてのエッセイも交えて、薀蓄の深い闘病記と拝見しました。

ご一読をお勧めします。

   
この本面白い(9)   「物語の役割」
「物語の役割」
小川洋子著
ちくまプリマー新書 680円

小川洋子さんといえば、「博士の愛した数式」という本でベストセラーになって有名な方ですが、透明で静謐な文章が印象的な作家です。
その小川洋子さんが、小説はいかにして生まれるかといったことを御自身の体験の中から、綴ったのがこの本です。

人は皆、物語を持っている。
小説家は小説を書くにあたって、ストーリーを書くのではない。
すでに、あちらこちらに隠れ潜んでいる物語を掘り起こすのだ。
そうすれば物語は、小説のなかで自然に語りだす。

小説を書くとは、そういうことなんです。
と著者は静かに語ります。
次いで、物語の役割にふれて、、、、

たとえば、非常に受け入れがたい困難な現実にぶつかったとき、人間はほとんど無意識のうちに自分の心の形にあうようにその現実をいろいろ変形させ、どうにかしてその現実を受け入れようとする。
もうそこで一つの物語を作っているわけです。

自分にとって悲しいことはうんと小さくしてというふうに、自分の記憶の形に似合うようなものに変えて、現実を物語にして、自分の中に積み重ねていく。

そういう意味でいえば、誰でも生きている限りは物語を必要としており、物語に助けられながら、どうにか現実との折り合いをつけているのです。


開業医という仕事は、患者さんの身近にあって、個人個人の物語を、あるいはひょっとするとその最終章を仕上げるお手伝いをすることかも知れませんね。

私にとっても、開業医という仕事は、そんな患者個人の物語を読みとくような、そんなふうに患者さんに関わりたいなと、思った次第です。

いま、日本の医療は、大きな変革期にあります。
それが実感として、感じられます。
これから、益々効率が求められていきます。

保険証もICカードになり、さまざまな医療情報が一元化され、集積されようとしています。
管理医療がどんどん進められていく、そんな時代の流れのなかで、患者個人の思いを大切にして、それぞれの物語を読みとく、そんな姿勢を忘れないでいたいと思います。

   
この本面白い(8)   「あなたの家にかえろう」
おかえりなさいプロジェクト

”あなたもわたしも仕事が終われば家へ帰る。
それと同じように、人生という仕事が終わる時は家に帰ろう。”

私の友人で尼崎の桜井隆さんたちが中心になって作った在宅療養のためのガイドブックです。
桜井さんたち医師だけでなく、ケアマネージャー、看護師、そして遺族の方も含めて、在宅療養なかでも在宅で人生の最期を迎える在宅ホスピスを支えようとする有志が集まった「おかえりなさいプロジェクト」が作成しました。

在宅医療の実際、在宅医療を支える訪問看護ステーションなどの紹介、相談の窓口、医療費のこと、そして実際の臨終の際の対応など、在宅医療のエッセンスが優しい言葉とイラストで飾られています。

在宅医療を推進する勇美記念財団の助成により作成されていますので無料(送料のみ負担)です。
冊子ご希望の方は、尼崎市のさくらいクリニックまでお申し込みください。
http://www.reference.co.jp/sakurai/

当院でも受け付けております。

   
この本面白い(7)   「名言セラピー 〜3秒でハッピーになる〜」
デイスカバー社 1,200円
ひすいこたろう著

たまには、軽く読める一冊を。
たった3秒でハッピーになるという、軽いキャッチコピーですが、意外と、本当かも。
ほんわか、ハッピーになるのに、案外時間は問題ではないかも知れません。

たとえば、、長寿世界一のギネスレコードを持つ、泉八千代さん(120歳237日)の名言として、泉さんが最年長を記録した記念のパーテイーの席上で、司会の人から、「どんな女性が好きですか?」という質問に対して、世界最年長の泉八千代さんは、照れながら、「わしはこう見えても、甘えん坊なところがあるから、年上の人が好き!」と答えたそうです。
このユーモアセンスが、健康長寿の秘訣かも?!というような、素敵な名言が集められています。

著者のひすいこたろうさんは心理学を勉強しながら、さまざまな人生の達人たちの人生を3秒で変えるものの見方、視点を紹介してくれます。
ものの見方、捉え方で、こうも気持ちが変化するということ。

小さな本ですが、読みやすい工夫がしてあって、ちょっと落ち込んだときなんかに有効かも知れません。ご紹介します。

   
この本面白い(6)   「〜初学者から専門医までの〜腎臓学入門」
東京医学社 4,200円
日本腎臓学会編集委員会編集


この本は、日本腎臓学会誌編集委員会が中心になって、最近の広範な腎臓学の進歩を解説したものである。
医学専門書ではあるが、大きな活字と平易な文章で分かりやすい記述に工夫が見られる。

序言の言葉に、東京慈恵会医大の川口良人教授が、「腎臓病専門医の標準的到達点をしめすテキストとして、また腎臓病学の最新の、整理された情報源として参照される価値のあるもの。」と記載されているように、私のように、町の開業医として実地の臨床を続けるものにとっては、有難い教科書である。

昨今、インターネットが花盛りであるが、学会のような学術団体が本書のような、まとまりのある教科書を発行していただくことが、医師の生涯教育には必要だと思う。
今後も継続して改訂が行われることを願います。

医学専門書ではありますが、腎臓病学の現時点での分かりやすい解説書として有用と思い、紹介致します。

東京医学社のホームページからも購入可能です。
http://www.tokyo-igakusha.co.jp/tankou/naika/jinzougaku.htm

   
この本面白い(5)  「常用字解」 「桂東雑記I」
平凡社 2,940円
白川静 著


白川静博士のお名前は、以前から存じておりました。
日本の漢字学研究の泰斗であられ、長年の業績から平成16年度の文化勲章を受章されたとお聞きしておりました。

一度、その著作を読んでみたいものだと思っておりましたが、先日市内の本屋で、白川先生の書かれた、「常用字解」という、常用漢字1945字について、その成り立ちを解説された基本辞典を求めることができました。

興味のあるところ、ぱらぱらと紐解きますに、私達の身の回りで、日常使用する漢字にこんなに奥深い、豊かな世界があったのかと目を見張る思いでした。

たとえば、私の名前の一字、「信」という字を紐解いてみますと、「人と言とを組み合わせた形、神に誓いを立てた上で、人との間に約束したことを『信』という。それで『まこと、まことにする』の意となる。」と記載されています。

こうして、自分の名前に当てられた漢字の意味を知るにつけ、名づけてくれた両親への感謝の気持ちもあらためて感じる次第です。

カタカナ言葉が氾濫する現在、あらためて漢字の世界に籠められた、われわれ日本人の歴史や精神性を思索するに良い本ではないかと思いました。

いい本に巡り合ったなと思い、ここに御紹介させて頂きます。
おなじく、「桂東雑記」は、白川博士の漢字をめぐるエッセイ集です。


平凡社 1,890円
白川静 著
   
この本面白い(4)   「〜初学者から専門医までの〜腎臓学入門」
集英社 2,205円
佐野藤右衛門著

久しぶりの良書の紹介です。この本は、ある林業を営まれる方からご紹介いただきましたが、もうすぐ今年も桜が本番となります。この本を読んで桜の見方が少し変わりそうです。「桜よ」というタイトルが示すように、日本の国花である、さくらへの想いを込めた一冊です。いうまでもなく、桜は日本の象徴であり、その淡い花の色と、咲き誇るあでやかさ、そして散り際の潔さなど、まことに日本人の美意識を象徴するものです。

「敷島のやまとごころを人とはば 朝日ににほう山桜花」と詠んだ本居宣長は、自らの墓標には一本の桜を植えよと願い、西行法師は「ねがはくは 花のしたにて 春死なむ そのきさらぎの 望月のころ」と歌っています。

そのような日本人を魅了する桜を守り、育てる「桜守」の熱い想いを綴った本です。
著者の佐野藤右衛門さんは、京都植藤造園の第16代当主とのこと、仁和寺御室御所に代々仕えるお家だったそうですが、第11代が植木職をはじめられ、第14代より特に桜守と呼ばれるようになったそうです。日本の桜を守るべく、本願寺の大谷光瑞門主の庇護のもと、この第14代が日本中の名桜を集めその保護に尽力されたのです。

日本には、桜の種類はおよそ300種以上もあるとのこと。
でも、大まかには日本に自生する桜は、山桜、彼岸桜、大島桜の三種類だそうです。簡単な3種の区別の方法が書いてありました、大島桜は葉の表面に細かい緻密な繊毛とよばれる毛が生えているそうです。これで食べ物を包むと腐敗菌が入りにくく、防腐作用があるそうです。山桜の幹はツルッとしていて、裂け目が横に入り、皮細工に使われるとのこと。一方、彼岸桜の裂け目は縦にはいるそうです。

京都円山公園の枝垂桜が昭和22年に枯れた時も、第15代佐野藤右衛門さんが移植して、2代目の枝垂桜を育てたという苦労話。台風の時には桜の幹を抱えて嵐の中を踏ん張って守ったというようなエピソードも紹介されています。また兼六園の天然記念物にまで指定された菊桜を守るために、菊桜の接ぎ穂を口にくわえて湿気を与えながら京都に運んだという話など、桜に賭けた人生の迫力に身じろぐ思いです。

いま日本の桜の80%がソメイヨシノだそうですが、この染井吉野とは、明治初期に東京の染井墓地近くの植木屋が「吉野山から採ってきた」と称して売り出した、一種のまがいものだそうです。もともとは伊豆あたりの大島桜と江戸彼岸桜が天然交配して出来た一種の突然変異だそうですが、染井吉野は接木がしやすくて、成長がものすごく早い、またどこに植えても同じように咲くといった便利な桜だそうで、いまや日本の桜の代名詞にもなっています。現在日本の桜を席巻する、この染井吉野は人間の手で作られたクローン桜だということを知りました。絶えず人の手をかけてやらねばならず、そして寿命も50年とかなり短い品種ということです。佐野藤右衛門さんは、桜を愛でるには山桜を一として、染井吉野はどこでも同じように咲く桜として、面白みがない深みがないと嘆いておられます。

藤右衛門さんは、この本の中で日本の名桜を紹介されていますが、以下に列挙します。
いつかこれらの桜を訪ねてみたいものです。

岐阜根尾谷の薄墨桜、北海道根室の千島桜、
京都御所の左近の桜、平野大社、左大文字山の西の原谷の紅枝垂桜、
府立植物園ちかく鴨川の半木の道、清水寺うらの地主神社の桜、
仁和寺の御室桜、京北常照皇寺の九重桜、などなど。

ちょうど、平成17年3月19日の日本経済新聞に日本の名桜のランキングが載っていましたので紹介します。

1. 三春滝桜(福島県三春町、シダレザクラ)
2. 根尾谷淡墨桜(岐阜県本巣市、エドヒガン)
3. 醍醐桜(岡山県落合町、エドヒガン)
4. 山高神代桜(山梨県北杜町、エドヒガン)
5. 荘川桜(岐阜県高山市、エドヒガン)

もう一人、櫻癖(おうへき)と自称した、桜守 笹部新太郎翁のコレクションが酒ミュージアムで開かれているそうです。
武田尾の亦楽山荘にも出向いてみたいものです。 http://www.hakushika.co.jp/group/culture.php

語りかけるような文章から桜への熱い想いが伝わってくるだけでなく、本当に装丁の美しい本です。中のページにはところどころ上欄に花弁が舞っており、この装丁の美しさが桜への愛着を一層伝えます。私もいつか、こんな美しい本を一冊書いてみたいなと夢見て読後感と致します。

   
この本面白い(3)  「禁煙外来の子どもたちその後」
奈良女子大学教授
高橋裕子 著
 東京書籍発行 1,500円

高校生や、中学生の喫煙はあるんだろうなと思っていましたが、この本を読んで小学生までもが次々と診察に来ているという実態に驚きを感じました。
同時に喫煙の低年齢化に対して、子供たちと正面から向かい合い、これは病気(ニコチン中毒)であると認識して真摯に治療にあたっておられる著者たちの活動の一端を伺い知りました。また私たち大人一人一人が、自覚を持つ事が大事であり、禁煙指導は地域ぐるみで行っていく必要があると痛感させられました。

本の帯に記載されている、「タバコを吸う子どもたちを次世代に残さないこと。このことは私たちの世代の大きな責務です。」という言葉に、著者の願いを感じ、誠に同感とうなずく次第です。
具体的な例も沢山あり、すぐにでも禁煙指導に役立ちそうです。
子供の喫煙に悩んでおられる人たちだけでなく、ひろく喫煙されている方々に読んでいただきたい一冊と思い、ご紹介いたします。

(文責;田中奈緒美)

   
この本面白い(2)  「元気が出る患者学」
元気が出る患者学
新潮社 720円
柳田 邦男 著


 柳田邦男氏著作の「元気が出る患者学。」
柳田邦男さんといえば、正統派のルポライターとして有名です。私も、学生の頃、「ガン回廊の明日」というがん治療の最前線を取材した作品を読み、ガン治療の最前線に挑む医師たちの熱い思いに胸をたぎらせた記憶があります。

柳田さんの作品は、それから長い間読む機会はありませんでしたが、飛行機事故を取材した作品や、息子さんの悲しいできごとを取材した脳死治療のこと、最近では医療事故などにも関心をもたれていることは知っていました。それから20年余りの時間がたって柳田さんの著書をまた手に取りました。

ずいぶん昔に、私にある意義深い薫陶を与えてくれた、「生きがい療法」の提唱者である、ちょっと変わり者の「伊丹仁朗先生」が贈ってくださいました。 ときどきこうして本を贈ってくださいます。 昨日の日曜日、この贈っていただいた御本を一気に読みました。今回の「元気が出る患者学」という、この新書は、医師ではないが、かなり医療事情に詳しい立場の柳田さんならではの視点が私にはかなり好感を持って映りました。おそらく皆様もそうでしょう。

この手の本は、医療者自身によるものか、あるいは患者サイドにたつものかの どちらかであるのが普通で、柳田さんのこの本は、どちらかというと患者サイドとはいうものの、医療者側にもそれなりの理解を寄せていてその点が好感をもった理由です。

いくつかの滋味ある言葉の中から、、ある章では、闘病とは「病気」について知ることと、同時に、病気を背負ってよりよく生きるための「生き方」について知ることの「二正面作戦」であるとして患者を励ましておられます。またある章では、医療者に求める患者への対応として、「医療とは、その人ならではの 個性的な人生街道を歩んできた患者と、医学、医療の職業人としての人生を歩んできた医療者が出会う交差点で共同で創る[作品]だ。として医療者を啓蒙しています。

ほんとうに私はこれらの言葉に共感を憶えます。そして医療者も、いつでも患者の立場になりえる存在であること。 たまたまその瞬間、医療者という立場に立つに過ぎないものであること。そんなことを思います。このような患者と医療者の双方の立場に立って、発言できる人は、そう多くはいないと思いますが、であるからゆえにこのような人の存在は、これからの医療のあるべき姿を模索するには大切だと思います。

末尾には、多くの患者会の連絡先や、生き方を教えてくれる参考書がならび、文字通り、元気がでる患者学と題するにふさわしい内容と思いました。 一読をお勧めします。

   
この本面白い(1)  「定年教授は新入生」
定年教授は新入生
集英社 1,600円
徳島大学名誉教授
島 健二 著

 金沢大学を卒業した後、私は大阪大学へ行くことにしました。
加賀百万石とはいっても、大阪に比べれば金沢は本当に小さな街です。北陸の片田舎から出てきた私に、大阪はそして大阪大学は巨大で、目が回りそうでした。

進学した医局の中で出会った先生が、この本の著者である島先生です。
当時は助教授でした。
私の属するグループとは異なりましたが、先生は病棟の回診を担当され、回診の前夜はハリソンの内科書を遅くまで読んでおられた姿が今も思い出されます。

回診は面白くて、随分いろいろなことを教えていただいたように思います。
後に徳島大学の教授になられた先生から、著書が届きました。
題して「定年教授は新入生」。

島先生は、老年病学、糖尿病学の権威で、日本糖尿病学会会長も勤められた、 重鎮であります。
現在は徳島大学を退官されましたが、なんと再び大学共通試験を突破されて、 新入生として、「考古学」の勉強をされています。

その顛末を記したのがこの書ですが、世間巷にいう老人、すなわち「虚弱であり、庇護すべき存在?」という社会的定義に挑戦するという人体実験の様子が述べられてい ます。
おもしろくて一気に読みました。

内容もさることながら、文を書くというのはこういうことなのかと思わせるほど、ちりばめられた豊かな言葉使いなど、洒落ていて収まりのよい言葉使いは、一層文章を ふくよかにして読みやすいものに感じました。
教養というのはこういうものを言うのでしょう。

自分の人生もこうありたいと思いながら、もう20年も昔になった先生との出会いを思 い出しています。
 高齢化社会が本格的になる今、このような強力な老人が?日本を救うのではないでしょうか。
島先生ありがとうございました。
私も先生のスピリットを見習って、がんばります。


お問い合わせ いまい内科クリニック
〒665-0021 宝塚市中州2丁目1-28 TEL 0797-76-5177