いま本屋さんに行くと、この本がかなり店頭に積んである。
さまざま新聞の書評でも紹介された、面白くて一気に読めると評判の、サイエンスノンフィクションであるので、私も早速読んでみた。
確かに面白い。
この本の著者は、福岡伸一先生である。
http://www.chem.aoyama.ac.jp/fukuokalab/
現役の生物学者である先生が、「生命とはなにか?」という命題の解説に取り組んだ本である。
彼は、生命とはなにか?という問いに以下のように答える。
1、生命とは「自己複製するシステムである。」
そして、自己複製を可能にする、おそらく20世紀最大の生命科学の発見である、DNAのらせん構造の解明にまつわる話を紹介してくれる。
1953年、ワトソンとクリックにより英の科学雑誌ネイチャーに発表された、DNAのらせん構造解明の論文は、なんとわずか1000語で書かれた短文であったという。そしてらせんの構造に方向性があり、互いに相補的な構造をなすという知見は、同時に自己複製の本体をも見事に説明する知見だった。
この偉大な発見にまつわる話として、ノーベル賞を受賞したワトソンとクリックの陰に隠れて、DNAのX線構造解析を通して、らせん構造の解明に多大の貢献をしたロザリンドフランクリンの業績を交えて、世紀の発見の裏に隠された人間模様をも解説してくれる。
次いで、彼は、生命とは、
2、「動的平衡にある流れである」と定義する。
その分かりやすい説明に、彼は浜辺の造られた砂上の楼閣に生命体を例える。
押し寄せる波に洗われるたびに砂上の楼閣の一部の砂は崩れて海に運ばれる。
そのままでは、あっという間に崩れてしまう楼閣が、しかし波にさらわれる一方で、波によって運ばれる砂で修復されるとすれば、生命体は本来のカタチを損なうことなく存在しえる。と解説する。
実際、放射性同位元素で標識されたアミノ酸を餌として3日間与えられたネズミの実験では、3日間与えられたアミノ酸の60%がネズミの体内に取り込まれたという。まさしく上述の砂上の楼閣のように、私たちの体は、毎日その組成から激しくダイナミックな新陳代謝を繰り返しているのである。
固体と思っている生命体も、ちいさな原子のレベルでみると、毎日激しく入れ替わる砂粒の集合体ということができる。
最後に、ご自身が取り組まれた実験を紹介されているが、その実験は、生命の機能に重要な役割を演じると思われるタンパク質を発見し、それを遺伝子操作することで発現しないように操作したノックアウトマウスの観察から、たとえひとつの非常に重要な役割をもつタンパク質の遺伝子を壊して、その生体での発現を止めたとしても、生命はその他の代償する機構を使って、生命体の維持を可能にするという実例を紹介されている。
生命とは互いに代償するしなやかさをもちつつ、動的平衡を維持するシステムなのである。と。
小さな原子、小さなタンパク質のピースの無数とも言える集合体からなる生体は、受精卵が成立した瞬間から、時間のながれに沿って、組み込まれている生命のプログラムに沿って、自己複製をしながら、動的な平衡状態を保ち続けるシステムといえる。
随分、原著を意訳したかもしれませんが、あらためて生命とはと考えさせてくれた本でした。
このような原子の時間軸での振る舞いの中に、意識が生まれ、記憶が生まれ、感情が生まれていく。
あらためて、「生きる」とは、不思議な現象であると感じた次第です。
DNAの発見に続く20世紀の生命科学の進歩に触れながら、生命とはという問題について、分りやすく解説してくれた、時には文学的な感性も光る好著でした。
さすがに、書評で高い評価を得ることはあると思いました。
なお、福岡伸一さんの名前を、ネットで探していたら、もう一人の気になる作家、内田樹さんのブログに行き当たりました。
http://blog.tatsuru.com/
次は、この今年の、小林秀雄賞を受賞された、内田樹先生の本を読んでみたいと思います。