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〜生きがい探し(その1)〜

宝塚市 いまい内科クリニック
今井 信行

 
 このたび貴研究会から小文を寄せるように御依頼を頂きました。私は以前より、ターミナルケアに関心をもっていましたが、関西労災病院に勤務していた頃、一通の手紙とともにこの研究会へお誘い頂いたことを覚えています。

 私とターミナルケアとの関わりは、この研究会でもときどき話題に上がる「生きがい療法」を提唱された伊丹仁朗医師と出会ったことに始まります。私は伊丹先生の勤める柴田病院で1年半にわたって勤務し、先生の生きがい療法を垣間見せて頂きました。今から15年ほど前の話です。
当時より伊丹先生は「生きがい療法」というものを提唱され、とくにガンの患者さんを集めて勉強会を定期的に催されていました。その活動のひとつが、がん患者を連れての富士山登山というカタチになって新聞に報道されたことを記憶されている方も多いのではないかと思います。 私も当時医師になって間もない時期でしたが、すでに何人かのガン患者さんを受け持った経験がありました。当時はまだ患者にガンであることを告げるのは社会的に大きなタブーとされていた時期でした。患者の前では、ガンであることをひたすらに隠し、臨終の間際にも患者からの真実の病名を知りたいという末期の願いに沈黙で答えていた時期だったように思います。そのような時代に、患者を連れて「富士山に登る」という行動を企画された伊丹先生に関心をもって、柴田病院に勤務することに致しました。

 私の理解する範囲で「生きがい療法」を御紹介いたします。そもそも精神科医であった伊丹先生があるガンの患者さんと出会ったとき、その患者さんが自分の病名をガンと知り、不安におびえ、何も手につかないでいる姿は、不安神経症の患者の置かれた状況に似ていると気づかれたことがはじまりと聞いています。伊丹先生は神経症の治療にもちいられている森田療法という心理療法が、このガンと知りなにも手につかないほど塞ぎこんでいる患者のこころの治療に使えるのではないかと気づかれました。詳しくは先生の著書を参考にしてください。

 私は精神科医でもありませんし、森田療法の理論を勉強したこともありません。難しいことは分かりませんが、先生から、また簡単な森田療法の入門書から聞きかじった限りで大変心に残っているのは、「あるがまま」、「行動がこころを変える」、「人間は同時に二つのことを悩めない」などのキーワードだと思います。
 つまり、ある人が大きな不安にぶつかり、心がとらわれてしまったら、その不安をぬぐおうと、あるいは不安からにげようとして、いくらもがき逃げようとしても、逆に不安はどんどん大きくなり、その人を飲み込んでしまいます。
 そのような時は、先の言葉を借りますと、不安を消そうとするのではなく、不安は「あるがまま」に置いておこう。そして不安でなにも手につかない心境であっても、とりあえず行動をおこしてみようというのが森田療法の考え方だそうです。行動することで、行動につられて心が前向きになり、やる気が湧いてくるのです。願わくはそれが自分が興味を持てることであればなおよろしい。夢中になることができればしめたもの。自分の心の中に生まれた興味あることへの関心が、ガンへの不安に押しつぶされそうになっていた心を解き放つのです。私たちの心は同時に二つのことに心を奪われないのです。新たな関心が沸き起こったとき、以前心を満たしていた不安の比重はだんだんに軽くなっていくのです。
 ガンへの不安はあるがままに、自分の心が関心をもつできごとを目標に定め(すなわち生きがいを定め)、その目標を実現するべく努力することで、ガンへの不安は克服できるのではないか。 これが「生きがい療法」のメッセージだと私なりに解釈しています。

 そうすると、次には「生きがい療法」はなにもガン患者に限った療法ではないことに気づきます。ガンでなくても、人を不安に陥れる多くの慢性疾患、あるいは病気でない一般の人にも当てはまるのではないでしょうか。「生きがい」をもって、それを実現するべく努力すること、それはストレスに囲まれ漠然とした不安を抱えている現代人へのメッセージではないかと思えます。

 私は平成12年の10月に、長い間勤務した関西労災病院を辞して、宝塚市にて医院を開設いたしました。この地で私がめざす医療というと大仰ですが、それはいくつかの専門的な医学的知識をもった医療という点もさることながら、がんの人には「がんの生きがい療法を」、人工透析を受ける人には「人工透析の生きがい療法を」、リウマチの人には「リウマチの生きがい療法を」、人それぞれ置かれた状況であっても、なお生きがいを見出せることのできる医療を行いたいというのが、実は「私自身の生きがい療法」なのですが、いささか抽象的でしょうか。
  この小文に寄せて、自己紹介をかねて自分の願いを書いてみました。いつかもう少し頭の中がまとまって、続きが書けることを願って、今日は筆をおきます。

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