できごと徒然
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No.0064

できごと徒然(64) − 〜バール・ミツバ〜 広めよう、深めよう、ホスピスマインド −

   平成18年の春から、宝塚市医師会の理事を拝命することになりました。
あまり気楽な気持ちで、文章を書くことができなくなっていましたが、このたび宝塚市医師会の月報に巻頭言を書く機会がありました。
ひさびさに、できごと徒然として残します。

最近の出来事の中から、7月28日に開催しました、宝塚緩和医療連絡協議会のことを書いてみました。文中に記載しましたように、自分の活動の拠り所を表現できる言葉を見つけたことは、自分にとって、大変うれしく心落ち着くことです。
大袈裟に言うと、理念という言葉になるのかもしれません。

この宝塚緩和医療連絡協議会の準備を通して見つけた、「ホスピスマインド」という言葉を、これからの自分の活動軸にしたいと思います。


巻頭言

「バール・ミツバ」
〜広めよう、深めよう、ホスピスマインド〜

理事 今井 信行

 今年の春から、医師会理事という大役を仰せつかりました。理事を拝命して、初めて与えられた仕事が、宝塚緩和医療連絡協議会の発足でした。
 発足の経緯は、宝塚市立病院診療部長、松田良信先生から、病院での治療を終えて在宅へ移行する患者さんの診療をめぐって、その連携がより円滑に進むように、また市内全域でそのような患者の受け入れが可能になるような体制作りをしたいとの発案がありました。山崎会長も今後の在宅医療のひろがりを考えて、医師会もできるだけの協力を行おうということになり、内科系から私が、外科系から栗田義博先生が世話人として参加することになりました。

 平成18年7月1日から、宝塚市立病院に緩和ケア科という診療科が創設されることもあり、宝塚市立病院に事務局を置くこと。市立病院以外にも市内の私立病院や訪問看護ステーションからも、それぞれ世話人を選出して積極的に参加して頂くことなどが決まりました。
私はこの宝塚緩和医療連絡協議会の準備を通して、いくつかの講演も聞き、何冊かの本にも出会いました。福岡で在宅ホスピス活動を続ける、二ノ坂保喜先生の講演会に参加して、私はその席で、日本にホスピス運動を紹介した先駆者である、報道写真家の岡村昭彦氏を知りました。そして彼が日本に紹介した何冊かの訳本の中で、「ホスピス〜その理念と運動〜」という一冊を読んでみました。

 この本は、近代ホスピスの母と呼ばれるシシリーソンダース博士が、1967年に創立したセントクリストファーホスピスの設立13周年を記念して開催した、第1回ホスピス国際会議(1980年)の内容をまとめたものです。ちなみに13年という時間は、ユダヤ教では成人式を迎える時間だそうですが、ユダヤ教では成人式を”バール・ミツバ”と称することにちなんで、この国際会議は”バール・ミツバ”と呼ばれたそうです。ホスピスの創立から13年を迎え、ホスピスの運動は成人式を迎えた。今後の課題と対策は?という問いかけを含めて、この第一回ホスピス国際会議が開催されたそうです。

 この本を読んで、私にとって驚きであったことは、1980年に開催されたこの会議の中で、ソンダース博士自ら、筋萎縮性側策後遺症(ALS)100例の報告を行っていることでした。ソンダース博士はホスピスへの取り組みの歴史にふれて、我々はただ死に至る時間の枠が異なっているだけで、確実に死を迎えるいくつかの慢性病の症状には取り組んでこなかったということを示し、今後のホスピスケアは、腫瘍学、神経学、およびその他の分野と関連があるため、老年学の一部と考えてよいと繰り返し強調されています。

 日本ではホスピスの対象疾患は、いろいろな経緯から、がん患者とエイズ患者に限られ、ホスピスというと、がんの疼痛コントロールの側面が強調されるような印象がありますが、すでにこの会議では、運動器疾患や高齢者医療なども、今後のホスピス運動の視野に含めるべきと指摘していたことは、私には驚きであったとともに、誠に視界の拡がる思いでした。
ホスピスの概念を、「喪失の経験を越えて生きる意味を見出すケアを提供するもの」と定義すると、残された時間の長さには大きなちがいがあるものの、末期がん患者にも、運動器疾患や神経難病の患者にも、あるいは人工透析とともに生きる腎不全患者にも、ホスピスケアの本質には共有できる部分があることに気づかされました。
私は以前から、がん診療、特に緩和医療に関心がありましたので、開業してからも、往診や在宅医療など続けておりました。同時に開業に当たっては人工透析を備えて開業を開始しましたが、少し専門的で特殊な腎不全診療を、日々の診療の中でどのように位置づけるかということをずっと考えておりましたが、この本を読んで自分の診療に命脈が通じるような気がしました。

 7月28日に開催された、第一回宝塚緩和医療連絡協議会の出席者は、84名と盛会でした。山崎会長はじめ、副会長の先生方にも参加していただきました。
その際の、参加者のアンケートの結果を掲載します。特別講演をお願いした、神戸の関本雅子先生の熱心な講演もあり、会場の熱気が伝わってくるようです。ちなみに本稿の副題に掲げた、〜広めよう、深めよう、ホスピスマインド〜という標語は、関本雅子先生が大会長を勤められた、第14回日本ホスピス在宅ケア研究会全国大会(2006年6月神戸)のスローガンでもあります。

 今後は、市内各病院との連携、情報交換を進め、また訪問看護ステーションを交え、一緒に勉強会の機会をつくったりと、活動を続けていきたいと思っています。
長い巻頭言になりました。いささか肩に力の入った文章ではありますが、理事になり初めての巻頭言ということで、若気の至りとご寛容のほどお願い申しあげます。
 今回、宝塚緩和医療連絡協議会の発足を担当させて頂いて、この連絡協議会で学んだこと、学べることが、今後の私自身の診療を拡げてくれると予感しておりますが、今後、高齢化社会が加速する中で、ホスピスマインドが地域の中へ広く深く浸透することを願って、微力ながらこの会の発展に尽力したいと願っております。

参考
1) 「ホスピス〜その理念と運動〜」
シシリーソンダース他編、岡村昭彦監訳
雲母書房、2800円、2006年6月

2)「在宅ホスピスのススメ」
看取りの場を通したコミュニテイの再生へ
二ノ坂保喜 監修
木星舎、2500円、2005年8月

3)「新ホスピス宣言」
スピリチュアルケアをめぐって
山崎章郎、米沢慧 著
雲母書房、1700円、2006年6月

 

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