できごと徒然
HOME
クリニックのご案内
診察日記
知識の整理箱
患者は今・・・
LINK

No.0096

できごと徒然(96) − 社会保障と生活デザイン 〜デンマーク、コペンハーゲンを旅行して〜 −


 この夏休みに、デンマーク、コペンハーゲンを旅行しました。
私がデンマークに関心を持ったのは、もう10年ほども前かもしれません。
宝塚ファミリーランドが閉園されることになり、その跡地の利用にある研究会が開催されました。その会で、松岡洋子さん(現東京家政大学教授)というデンマークの高齢者居住を研究している方の話を聴く機会がありました。そこで、デンマークはすでに1980年代に、日本の特別養護老人ホームにあたるような大型介護施設の新規建設を法律で禁じたということを知りました。日本では現在もなお特養入居待ちが続くというのに、地球の反対側にはそのような施設の建設を法律で禁じた国があるということを知り、当時これには大層驚きました。それ以来、松岡洋子さんの本を読み、デンマークに関心を持つようになりました。

  ご存知のようにデンマークは北欧デザインの中心でもあります。洗練されているとともに、誰にでも使いやすい実用性と機能性を兼ね備えた多くのデザインを生み出しています。そのような洗練された、人にやさしい優れたデザインが生まれる源流はなにか?デザインの産み出される背景も知りたいと思っていました。

 旅行するまで、デンマークは北欧の小国だと思っていました。人口550万人、国土は九州に相当する程度と。しかし、町中を歩いてみると、市庁舎や教会、美術館など、多くの古い建物が残り、長い歴史を持った国だということが分かりました。そして市庁舎の塔よりも高い建物は建ててはいけないという決まりを守っているために、多くの建物が4階建てで高さが揃っていることも、よりこの町をすっきりと見せています。建物の色使いも窓枠に至るまで決められているようで、自分の好きな色を塗るわけにもいかないそうです。こうして景観は守られ、町に統一感が感じられます。

 

Bispebjerg ホスピタル

Bispebjerg ホスピタル 設立1913年
 


 このことからも、豊かでかつ厳しい自然を大切にしながら共存する姿勢、人が互いに共生する姿勢が伺えるような気がします。デンマークの洗練された生活デザインは、厳しい冬の環境をいかに快適に生活するかを模索した結果なのかもしれませんが、すべてにおいて常に人が中心にあるように思えました。


 ところでコペンハーゲンでは、日曜日はほぼすべてのお店が休みになります。これも驚きました。世界初の歩行者天国といわれるストロイエと呼ばれる目抜き通りでもお店は閉まっています。日本ではかきいれ時の日曜日を休むなんて考えられないことですが、彼らは商業主義に過度に浸ることなく、自らのライフステイルを守っていると感じました。

 また古い建物も壊すことなく可能な限り再利用していることにも感心しました。散策した近くに大きな病院がありました。広大な緑の芝生に囲まれた病院ですが、建物は周囲の緑とうまく溶け込んでいます。建物はすべて古いレンガ作りの建物ですが、患者の移動は地下の通路で繋がっているということです。外観は完璧なまでに守られています。

 この病院の近くに素敵な教会がありました。Grundtvigs kirke、kirkeは教会という意味です。教会のデザインも斬新です。さすがデンマークという感じです。この教会の隣に丸いドームの古い建築物がありましたが、なんと昔の火葬場だそうです。それが現在はダンスホールとして利用されているということ!火葬場をダンスホ>ールに再利用するなんて、信じられないくらい自由な発想です。しゃれこうべがダンスを楽しむのでしょうか?なんかおとぎ話のような現実の話に、びっくり仰天です。

 ちょうどヨーロッパは夏のバカンスの季節なのでしょう、あちこちで短い夏の太陽の日射しを満喫しようと日光浴にいそしむ人々の姿が見られました。日光浴をしながら、ゆっくりと食事を楽しむ姿は、なにか人間本来の姿を見せてもらったような気がします。日光が当たると急に温度があがります、一方で陰ると夏でも肌寒く感じます。緯度のせいかオゾン層のせいか、日射しが照るとオーブンにあたったように焼けた感じがします。

 コペンハーゲンを歩いていると、音が少ないことに気づきます。都会のあの喧噪、商店街を流れる大きな音がありません。音といえば、おしゃべりを楽しむ人の声が耳に残るくらいです。これも心地よく感じました。また、空気もきれいです。自転車大国であり、自転車専用道路が整備されていることもあり、車の数が少ないことも大気を汚染から守っているのでしょう。自転車は音もなく高速で通り過ぎて行きます。

 


Bispebjerg ホスピタル 北欧神話の像 
 

Grundtvigs Kirke

昔の火葬場、今はダンスホールとのこと!
 

 松岡洋子さんの紹介で、市内から1時間ほど電車に乗った郊外のヒョースフロムにある、ソフィルンと呼ばれる高齢者タウンに、インガ・ベンツエンさんという女性を訪ねました。
 このソフィルンという高齢者タウンは、日本の天皇陛下も見学に来られたという、デンマークの代表的な高齢者タウンのひとつです。施設という箱物を造らずに、広大な敷地の中心にアクテイビテイセンターという共同棟を置きながら、周辺に平屋の高齢者住宅が配置され、施設機能が地域に展開されています。住居はそれぞれ2DK程度の広さを持ち、バス・トイレも独立しています。インガさんは足が悪いらしく、車椅子に乗って応対してくれました。この住宅で独りで暮らしています。なにか体調に急変が起ったときには、ペンダント型のアラームを押すと、センターから見守りに来てくれるそうです。家賃は毎月5000デンマーククローネ(現在、およそ65,000円)とのことです。ただ現在は入居待ちが続き、何年も待たないと入居できないとのことでした。
 食事もセンターで取ることができます。およそ40クローネ(600円程度)でした。インガさんが食事に誘ってくれて、一緒にセンターで食事をしました。フライした魚とカレー味の和え物が添えてある簡素な食事でしたが、これで充分でした。インガさんの説明では、今日の厨房には前市長だった女性がボランテイアで手伝っているとのことで、これも驚きました。

 

デンマーク郊外の高齢者住宅、ソフィルンを訪ねる

ソフィルン アクティビティセンターの食堂
 

 デンマークを旅行して、この国が小国ながら、深い歴史とプライドを持っていることが分かりました。デンマークならびに北欧は、税金が高く、高負担高福祉の国として知られています。では税金が高ければ、このような高福祉が実現できるかというと、それほど単純ではないことにも気づかされました。

 デンマークの先進的な高度な社会保障は、同時に彼らの生活観、人間観、共生の意識に根ざしているのではないかということ。同じくデンマークデザインも、このような人間観から生まれてきたのではないかと思い、その根源には同じような思想があるのではないかと思いました。
 そして、例に挙げるには外れているかもしれませんが、例えば日本では、「親や先祖は大事にしなさい」という言葉が社会の通念にあるように、デンマークでは「自然や環境は大切にしなさい。デザインは互いが生活しやすいために必要なので大切にしなさい。」という言葉が、通念として彼らの骨身に染み込んでいるように思えるほど、彼らの環境、デザインへの敬愛には深いものが感じられました。
 「デザインには、生活を変える力がある。」という言葉がなるほどと思われました。とても日本は即座にデンマークの真似をすることはできないと思いましたが、参考になるものを一杯見つけることができました。
今回の旅行にあたり、快く代理を引き受けてくださった宝塚市医師会同僚の先生方はじめ、当院スタッフ一同に感謝します。

 今回の旅行で、ますますデンマークをはじめ北欧の魅力に取り憑かれてしまいました。これから、デンマークスタイルを参考にして、自らのライフスタイルを考えていこうと思います。

 
[ BACK ]
 


お問い合わせ いまい内科クリニック
〒665-0021 宝塚市中州2丁目1-28 TEL 0797-76-5177