「今までの10年、これからの10年
宝塚市の地域包括ケアの現状と課題」(スライド:PDF)
2025年8月21日、宝塚市地域包括ケア研究会 3つの若葉を考える会のミニシンポジウムが宝塚市西公民館で行われました。
発表の機会を頂きましたので、その発表の内容について報告させて頂きます。
私が多少なりとも10年前の事情を知るがために御指名頂いたものと思います。
振り返れば、2014年8月28日に第1回のミニシンポジウムが行われ、当時の中川智子市長にも参加頂きました。10年を経て、今回のミニシンポジウムには、公務ご多忙にも関わらず森臨太郎市長に臨席して頂き、冒頭の御挨拶を頂きました。森市長は選挙の公約にも、医療、介護、福祉の連携を挙げられており、3つの若葉の会の活動にも御賛同を頂きました。
シンポジストは、宝塚市高齢福祉課 門田憲亮さん、宝塚リハビリテーション病院 多田明宏さん、宝塚市社会福祉協議会 梅垣暢子さんと私でした。
私は発表にあたり、皆さんはこの10年の変化をどのように捉えておられるのか、アンケートを取ってみようと思いました。対象は宝塚市内で活躍する医療介護福祉の専門職の方です。Google form でアンケートを行ったところ、123名の方から回答を得ました。その職種の内訳をスライド1に、この10年間で地域包括ケアが良くなったのか悪くなかったのか、その回答をスライド2にまとめました。
結果、75%の方がこの10年間で宝塚市の地域包括ケアは良くなったと回答されました。次いで、この1万字に及ぶ回答をChatGPT にまとめてもらいました。良くなったとの回答の要点がスライド3です。その中では、3つの若葉を育てる会などの顔の見える関係づくりを継続していること、またMedical Care Station (宝塚あんしんネット)の利用が進んでいることなどが挙げられていました。ChatGPTも、「宝塚市では特に顔の見える関係づくりと在宅支援の厚みが評価されやすい。」と評しています。
一方、良くなっていないという回答には、スライド4に示すように、看護職、介護職などの人材確保が困難になっていることが真っ先に挙げられました。
その他、デジタル化の遅れ、事務書類の多さ煩雑さ。介護保険制度の複雑さ?。市民への認知の不充分などが挙げられました。ChatGPTでは、「人・仕組み・住民理解」の点において改善されていないという評価でした。
次の10年への提言としては、(スライド5,6,7)
1)人材確保と担い手の育成
2)ICT闊葉と情報共有体制の統一
3)地域住民への啓発と理解促進
4)医療・介護・福祉の連携強化
5)社会的弱者の支援強化
6)働きやすい環境整備
などが、挙げられました。
実際、どのようなケースへの対応に困難を感じるのか考えてみました。当院のスタッフで検討した結果、貧困、独居、認知症、医療ニーズ(とくに糖尿病など自己管理を要する疾患をもつケース)への対応が困難になると思います。これを私は「困難の四重奏」と名づけました。(スライド6)
高齢化が進み、このような要因が重なると、結局、療養型病床にお世話になることとなり、その後の在宅復帰は困難であり、次の療養先の選択肢が少なくなります。
このようなケースにどのように対応するかが、今後10年大きな問題になるこのではないかと思います。
実際、宝塚市内でも在宅療養を専門にする診療所も増えました。また訪問看護ステーションも2010年には6カ所であったものが、2020年には28カ所と5倍に増加しており、在宅医療を提供するリソースは豊富になったといえます。(スライド8)
さらに特筆すべきは高齢者のすまいの多様化です。スライド9は地域包括ケアシステムを説明する有名なイラストですが、この高齢者の生活の土台になる「すまいとすまい方」が大きく変容してきていると思います。
なかでもスライド10に示すように、有料老人ホームの増加は明らかです。
しかしながら高齢者施設は多様で、その対応も施設によってまちまちです。周囲から見ると、施設の中でどのような医療、介護が行われているのか分かりません。(スライド11)。
施設入所は高齢者自身が選択するものでありますから、他者がコメントするものではありませんが、少なくともその施設はどのような特徴があり、どのような対応をしてくれるのかということは、一般の市民に分かりやすく情報提供されるべきものではないでしょうか?
まとめを、スライド12に示します。
1)今後、人口減少に伴い人材確保困難となり、介護力の提供は縮小すると予想されます。今以上に人材は増えないわけであります。互いのコミュニケーションを深めていくことが対策の一つと考えます。そのためにはMCSの一層の普及も有効と思います。
2)在宅医療を提供する施設は充足してきていると思います。また高齢者施設も増加しました。施設が高齢者のすまいとしてますます重要な場所になってきています。
施設の内でどのような介護サービスを提供しているのか、市民が選択しやすいように情報の開示が必要ではないかでしょうか。
3)貧困、独居、認知症、医療ニーズと「困難の四重奏」を持つ症例では、在宅療養が困難であり療養型病床に頼らざるを得ない現状です。今後はこのような困難事例にどのような対応していくかが課題になると思います。
4)「主体は市民。」であり、市民に在宅療養を知ってもらい介護保険を利用してもらうために、そのような情報を発信できる場所が必要なのではないかということを提案したいと思います。
森市長の医療介護福祉の連携構想の一端になればと思います。
スライド13は、ある日の新聞に折り込み広告で入ったチラシですが、宝塚市の高齢者住宅の特徴、価格などを分かりやすくまとめたチラシです。現状、このような情報でさえ入手し比較することは困難な状況と思いますので、このチラシはなかなか画期的と思います。このような情報を身近に入手できる場所があればよいなと思います。
最後のスライド14は、最近読んだ本です。
楡 周平さんという経済問題に詳しい方が書かれた「限界国家」という小説です。
人口減少が進んだ20年後の日本の社会を題材にした経済小説です。誰もが気づいているけれど正面視したくない話題に取り組んだ内容で、小説ですが参考になる部分もありました。その中の言葉に、「進歩は労働の軽減をもたらすように進んできた。」という言葉が印象に残っています。逆にいえば、「労働の軽減をもたらさなければ、進歩にならない。」ということではないでしょうか。今、人々の負担を軽減するように進化しなければ、この国に将来はないと危機感を持ちます。
今回のミニシンポジウムは、私にとってもあらためて現状と課題を考える機会となりました。
中州地区 いまい内科クリニック 今井 信行
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