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ボタン血液透析におけるブラッドアクセス(文献紹介) ボタン

Vascular access for hemodialysis.; Kidney Int 1999:55; 2078-2090.

「症例呈示」62才の黒人女性が、NIDDMにともなう腎症のために、2年前から血液透析をはじめた。彼女はCr 8.6mg/dlで紹介となり、早速内頚静脈からのカテーテルを用いて、透析が導入された。 ついでbrachiocephalic(橈骨動脈橈骨皮静脈吻合)内シャントが作成されたが、発達不良であった。左上腕にPTFEグラフトが埋め込まれた。血流はうまくとれ、彼女はdynamic venous pressure testingによるhemodialysis vascular access monitoring protocolに登録された。
その後2回にわたり、彼女はグラフト静脈吻合部の2cm上流に生じた狭窄のためにPTAを行った。いずれも静脈圧が設定圧を越え、これが狭窄を疑わせるきっかけとなった。4カ月後、venous dialysis pressure monitoring法はultrasound dilution access flow 法に変更となった。
彼女のシャント血流を1ヶ月ごとに測定したところ、1020ml/min から 750ml/minへ低下し、吻合部造影は、同じ狭窄部位の再狭窄を示した。カテーテルによる血行再建が行われたが、拡張は得られなかった。彼女は手術的再建を言い渡されたが、拒否していた。さらに1ヶ月後、flowは680ml/minまで低下し、グラフトは血栓にて閉塞した。Pulse spray 法により、血栓は溶解されたが、95%の流出路狭窄が残ったため、手術的血行再建が行われ、現在flowは980ml/minである。

現在アメリカで最も普及している(約70%)、permanent vascular accessはPTFEグラフトである。primary AV fistula(いわゆる内シャント)も行われるが、腎臓専門医への紹介が遅れていること、高齢化、糖尿病患者など内シャントの作成が困難な症例が増えていることから、その普及には限界がある(20%)。
これら内シャントをはじめとするブラッドアクセスにかかる医療費は$8000/pt/year、透析患者にかかる総医療費の17%、総入院の25%、入院費用の50%にも及ぶという試算がある。HMOも末期腎不全に要する医療費の1/4が、シャントの維持に使われているという試算をしている。

 ブラッドアクセスには以下のものがある。
最も初期から行われ、現在でも最もよいアクセスは、自身の血管を用いた内シャントの作成である。動脈と静脈を側側吻合あるいは端側吻合して作成される。 しかしながら、"native AV shunt": 発達に3-6カ月かかる。高齢者、糖尿病では血管の発育不全のため、早期から腎臓専門医に紹介する必要がある。
"synthetic AV graft" :PTFEなる合成素材をもちいた人工血管であるが、3-4週で使用可能となる。しかしこの最大の欠陥は、血管内皮あるいは線維筋性の過形成による、静脈流出路狭窄である。
"cuffed , tunneled, jugular dialysis catheter"である。恒久的な使用が可能と言われているが、実際は他のAVアクセスほどの永続性はなく、緊急アクセス的な役割である。

Access failure
アクセス不能という状態は主として二つの原因でおこる。
80%以上のアクセス不能の原因は、血栓症というエピソードが解決されないということが原因でおこる。
ふたつめは、感染などの合併症でおこる。 Duke大学の検討では84%の頻度で、Austin clinicでは85%の頻度で血栓症がアクセス不能の原因になっている。DOQI(Dialysis Outcome Quality Initiative) は80%以上のアクセス不能の原因は静脈側循環の流出路の狭窄によると結論づけている。 この狭窄は静脈グラフト吻合部、静脈の分岐部、静脈の石灰化した弁、あるいは中心静脈にカニュレーションした部位などでおこることが知られている。
動脈側が原因のアクセス不能の原因は2%以下であるといわれている。明かな解剖的異常によらずに狭窄がおこるのは15%以下と思われる。
組織学的には内膜の増殖や、線維筋性の増殖がこの静脈流出路狭窄の主因と思われている。またこの狭窄の50-70%は静脈とグラフトの吻合部の3cm以内で発生する。
Nativeな血管を用いた内シャントではこの狭窄の確率は少ない。
このように内シャントであれ、グラフトであれ、アクセス不能の原因は静脈循環の内膜過形成あるいは線維筋性の過形成によることが明らかになった。  
native内シャント(作成後60日以内に充分発達しないものは除く)は、AVグラフトよりも開存率は高い。累積開存率はグラフトの方が高い。ただし、これはグラフトの場合、3-6倍の手間(アクセスインターベンション)をかけた結果である。 ただ予防的に観察し、早期に修復を試みる施設にあっては、内シャントとグラフトはほぼ同等の開存率である。3年累積開存率はグラフトで50%である。 埋没型カテーテルの開存は平均12ヶ月であり、DOQIはこの方法を恒久的アクセスとして勧めてはいない。
Access salvage(アクセスを救済するには)、早期に流出路狭窄が発見できれば、グラフトの開存率が向上する。 このブラッドアクセスの状態をモニターするには、以下のモニター法が考えられる。
1)dynamic venous dialysis pressure:
 血流や条件によって測定値がばらつく。 この方法はすでに狭窄ができてしまったいる場合、あるいは静脈グラフト吻合部狭窄などを検出するにはよいが、はるか上流の狭窄を検出する感度は少ない。
2)static venous pressure
 血流が0ml/minの状態の圧を測る。
3)ultrasound dilution technique
 この方法も術者によって結果がばらつくが、もしPTFEグラフトの血流が600ml/min以下であれば、早晩血栓にて閉塞することが予測される。あるいはもし流速が1000ml/min以下であるならば15%以上の流速の減少は血栓症や、有意の狭窄の存在を示唆するものである。毎月の定期的な流速測定が望ましい。
 私たちはultrasound dilution techniqueを用いて、試験的に検討を行ってみたが、PTAを行うと、内シャントで平均33%、グラフトで平均41%の血流の増加がみられる。 もしPTAをおこなっても、10%以上流速が増加しないのであれば、さらに流速が低下して、また血栓症がおこると予想される。
 いずれにせよ予防的モニタリングと早期の血行再建(PTAにせよ手術的にせよ)をおこなうことで、シャントの開存率が40-80%高まることが各施設から報告されている。

 血行動態(流速の低下をともなわないような)軽度の狭窄を修正するべきかどうか、については結論がでていない。 一般的に内腔の50-70%狭窄は最も理想的なPTAの適応である。これらの病変をPTAした場合の平均開存期間は6ヶ月である。したがって血行再建を反復する必要があるが、血行動態の指標(access blood flow など)を改善できなかった血行再建は意味がないことは言うまでもない。

DOQIのコンセンサスとしては、カテーテル血行再建後の開存率を向上する目的においては、金属ステントの使用は意味がないというのが一般的である。ステントは手術修復の妨げになる。したがって末梢の狭窄に対しては意味は低い。このような部位では手術的再建が重要な手段であるから。理論的にいって、ステントの留置は血管内皮にたいして強力な増殖刺激になる。したがってステントをnon-elastic lesion (狭窄部位に弾性がなく再狭窄しにくい部位)に用いることは逆に開存期間の短縮につながる。しかしelastic lesion(弾性部位で拡張が得られても弾性があり、再狭窄しやすい部位)に用いることは有効である。ステントの使用に最も適切な部位は手術的修復が困難な中心静脈と言える。

90%以上のもっと進行した狭窄は当然の如く、血栓化しやすく、またPTA等にも抵抗性で、3ヶ月開存は40%程度。手術的な修復ではもう少し成績が良くて、6-12ヶ月の開存は60-70%に得られる。

AVグラフト(人工血管)の血栓症は外科的切除、あるいはPulse spray法などでうまく治療される。血栓症の治療はしかし同時に狭窄の治療が必要になる。現在ではグラフトの寿命は70%が3年に至る。 これらの手技は内シャントにも応用されるが、いまだ成功率は低い。

 長期の寿命を得るには、access failureの主因をなす、内膜あるいは線維筋性の肥厚をいかに解決するかが問題になる。静脈の狭窄は内皮の障害と血管平滑筋の過形成が、乱流、血管壁の伸展、shear stressのかかる部位でおこることにある。 狭窄はこのような部位でおこるが、同じようなストレスのかかる動脈グラフト吻合部や内シャントの動静脈吻合部ではおこりにくい。
 なにか特別の因子が存在する可能性がある。例えば反復穿刺により血小板の小塊が形成され、そこからPDGFなる因子が放出されることが原因になるのかも知れない。実際最近dipiridamoleの大量投与が狭窄を予防する可能性が報告された。
シャント閉塞の大きな理由は血栓症であり、これはそもそもある程度内腔が狭窄した部位、すなわち、吻合部から3cm程度近傍で発生することが多い。 シャントは透析者の生命線ですから、自分のシャントの状態を観察することを心がけてください。シャントは吻合部から3cm程度で内腔の狭窄が起こり、その部位に血栓ができることで閉塞することが多いと言われています。

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